東京都では、2025年10月から無痛分娩に対する助成制度が始まりました。
この取り組みは少子化対策の一環として進められますが、一方で「痛みを伴って出産することこそが本当の出産だ」といった価値観に対して、新たな視点を提供するものとも考えられています。
出産における痛みとその価値について、みなさんと共に考えていきたいと思います。
(※2025年9月7日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

日本における病院側の理由と古い伝統や価値観

無痛分娩が欧米では普及している一方で、なぜ日本では広がっていないのでしょうか。
清和大学の大西香世教授(政治学)は、出産の痛みを「通過儀礼」として捉える文化的背景に加え、制度面での制約が影響していると指摘しています。

無痛分娩は19世紀半ばに始まり、20世紀には欧州で「出産奨励主義」のもと、国家施策として推奨されました。
特に英国では、1930年代に女性を出産の痛みから解放し、出生率を向上させるために無痛分娩が普及しました。
また、フランスでは1990年代半ばから国家政策として無痛分娩が本格的に推進され、分娩施設の集約化と保険適用による無償化が進み、現在では無痛分娩率は8割を超えています。

アメリカでは、20世紀初頭の女性運動をきっかけに無痛分娩を求める声が広まりました。
しかし、日本における無痛分娩は、明治時代にドイツの方法が導入され、大正時代には与謝野晶子が無痛分娩で出産したものの、その後の普及には至りませんでした。
現在でも無痛分娩の利用は1割強にとどまっており、これは出産時の痛みを「母親になるための通過儀礼」とする考え方が根強くあることに加え、制度面の制約も影響しています。
たとえば、助産師が行える医療行為は法律で限られており、無痛分娩を提供する施設が少ないことや、無痛分娩の費用が保険適用外であることが普及の障壁となっています。

また、日本では無痛分娩を求める運動が広がることはなく、むしろウーマンリブの運動が自然分娩を推奨する方向に進みました。
これは、化学薬品による胎児への影響を不安視する声が多かった時期と重なり、「自然分娩ブーム」が起こったことに関連しています。

無痛分娩が出生率向上に直結したというデータはないものの、希望する産婦が無痛分娩を選びやすくすることは重要です。
しかし、無痛分娩が普及したフランスでは、自然分娩を経験していない助産師が多く、逆に自然分娩が難しくなっているという課題もあります。
どのような出産方法であれ、個人の希望に沿ったお産ができる環境を整えることが大切だと言えるでしょう。

特別養子縁組を通じて感じた「母性」もある!

「お腹を痛めて産んだことで子どもへの愛情が深まる」といった考えには意味があるのでしょうか。
特別養子縁組で小学1年生の長女を育てる、元TBSアナウンサーで兵庫県姫路市教育長の久保田智子さんに、その思いをお伺いしました。

特別養子縁組では、妊娠や出産を経ずに子育てが始まります。
そのため、「私は何もしていないのに、子どもを可愛いと思えるのだろうか」という不安を感じていました。しかし、実際に娘を迎えた時には、「かわいい」「いとおしい」という気持ちが自然に湧き上がってきました。

一方で、「私は産んでいない」という劣等感を感じることもありました。
多くのお母さんは「産むこと」と「育てること」が一体となっているため、粉ミルクの缶には「母乳が最良」と書かれていて、「私は最良のことができない」と思ったこともありました。

ですが、友人に勧められた育児書を読んで、考え方が変わりました。
アメリカ人がフランス流の子育てを観察・分析した「フランスの子どもは夜泣きをしない―パリ発『子育て』の秘密―」という本です。
この本を通じて、子育ての「当たり前」が国によって異なることを知りました。

日本では、昔から「自然分娩が望ましい」という考え方がありましたが、「なぜ?」と問われたときに、どう答えるべきかと考えさせられました。
今では、私は「子育ては人それぞれ」という考え方を持っています。

娘が「ママ」と呼んでくれるようになり、自信を持つことができました。
私をこんなにも必要としてくれる人がいることは大きな喜びであり、「産んだ、産んでいない」ということは関係ないと感じています。
さらに、「自分の命をかけてでも守りたい」と思えるようになり、これが「母性」なのだと実感しました。

20代で不妊症がわかり、結婚後は夫婦で多くの時間をかけて話し合いました。
最終的に特別養子縁組を選択するまでには、私なりの苦しみがありました。

最終的には、子どもが幸せであればそれで良いと思います。
大変な出産を経験したことで「母性」が芽生えたと感じる人もいるでしょうし、私のように自分なりの「母性」を持ち、子どもと幸せに生きる人もいるでしょう。
お互いの価値観を押し付けるのではなく、それぞれを尊重することが大切だと思います。

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